船長日誌: 星暦9986.104 - 知覚する生肉/生肉でできてるんです

OMNI、1991.4.1991年ネビュラ賞候補作.
by Terry Bisson

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"生肉でできてるんです"
"生肉?"
"生肉.生肉なんです"
"生肉?"
"間違いありません.惑星の数箇所から幾体かを選び、偵察機に連れて来て完璧に調べ上げました.百パーセント肉です."
"そりゃ不可能だ.電波信号は? 外宇宙への通信はどうなる?"
"交信のために電波を使っていますが、彼らが発しているわけじゃありません.機械から出ているんです."
"じゃその機械を作ったのは誰なんだ? 接触したいのはそっちの方だ."
"彼らが作ったんですよ.それを言おうとしてるのに.機械を作ったのは生肉です."
"そりゃばかげてる.一体どうやって生肉に機械が作れるんだ? 知覚する生肉の存在を信じろっていうのかい、君は?"
"信じてくださいって言ってるんじゃなくて、報告してるんです.あのセクターでは彼らだけが意識をもった生物種で、そして生肉でできてるんです."
"もしかしたらオルフォライと一緒なのかな.そら、炭素ベースの知生で、肉の段階から変態するやつだ."
"いや、違います.生肉に生まれて、生肉で死ぬんです.数世代観察してみましたから.あまり長くはかかりませんでしたがね.生肉の寿命がどれくらいか想像つきます?"
"勘弁してくれよ.わかった、部分的に肉なだけなんだろう.ウェッディライみたいに、頭が肉で電子プラズマの脳が中に入ってる."
"違いますね.ウェッディライのように肉の頭ですからそれも考えましたが、言いましたように、私たちは上から下までスキャンしたんです.中の中まで生肉です."
"脳は無い?"
"あぁ、脳はちゃんとありますよ.ただそれが肉でできてるんです! それが言いたかったんです."
"つまり ... 思考はどこがやってるんだ?"
"まだ分かってないみたいですね... 私が言ってることと向き合うのを避けてませんか? 脳が思考してるんです.肉がです."
"思考する肉! 君は思考する肉の存在を信じろっていうのか!"
"そうです、思考する肉です! 意識をもった肉! 愛し合う肉.夢見る肉.何が何でも肉! そろそろどういうことか見えてきましたか、それとももう一回繰りかえさなきゃいけないですか?"
"あなおそろしや.それじゃ本気なんだね.彼らは生肉でできてるとは."
"ありがとうございます.やっと.はい.実に彼らは生肉でできてるんです.そして彼らの時間で百年ちかくも我々と接触しようとしてたわけです."
"あなおそろしや.それでこの生肉は何をしようとしてるんだ?"
"まず、我々と話したがっています.それから、想像ですが宇宙探査、他の生命体と接触、アイデアや情報交換.いつものやつです."
"生肉と話さなきゃいけないのか."
"そういうことです.電波で送信してきてるのはそんな内容です.'もしもし.誰かいますか.もしもし.' そんな感じのことです."
"実際話すんだな、それじゃ.言葉とか、表象、概念とか?"
"えぇ、はい.ただそれを生肉でやるんですけどね."
"電波を使うって言ったと思ったが."
"そうなんですが、電波にのってるのは何だと思います? 生肉の音ですよ.肉をたたいたりばたばた動かしたら音がでるでしょう? 彼らはお互いに肉をばたばたやって話すんです.肉の間から大気を噴出させて、歌だって歌えるんです."
"あなおそろしや.歌う肉とは.これはもうあんまりだ.それで、君の意見は?"
"公式のですか、それとも非公式の話ですか?"
"両方だ."
"公式には、我々は宇宙のこの四半区域内、すべての意識を有する生物種や複合体と接触、歓迎し接続することを命じられています.無差別に、恐怖や好意に関わらず.非公式には、記録を消去してすべてを水に流すことをお勧めします."
"そう言ってくれないかと思ってたんだ."
"残酷なようですが、ものには限度がありますからね.私たちはほんとに生肉と友好関係を結びたいんでしょうか?"
"百パーセント同意するよ.一体何か言うことがあるかい? 'やあ、肉.どうだい、調子は?' でもうまくいくかな? 惑星はいくつあるんだ?"
"一つだけです.彼らは特別な肉の入れ物で他の惑星にも行けますが、生存はできません.それに生肉なのでC空間内しか移動できません.光の速度に制限されますから、これから先接触してくる可能性はかなり低いでしょう.もっと言えば、無限小かと."
"つまり、宇宙には誰もいないふりをすると."
"そういうことです."
"残酷だな.だが君もいったように、一体誰が生肉と顔をあわせたいかねぇ? それから乗船させた、君がスキャンしたのは? 覚えてないのは確かなんだな?"
"覚えてたとしても気が狂ったと思われるだけでしょう.頭に侵入して、肉をきちんとならしておきましたから、我々は彼らには夢と思われるでしょうね."
"肉の夢! 奇妙にもぴったりしてるな、我々が肉の夢とは."
"それからセクター全体を無人としておきました."
"よし.満場一致だ、公式にも、非公式にも.一件落着.他は? 銀河系のそっち側には誰かおもしろそうなのは?"
"はい、G445ゾーンに少し恥ずかしがりですがチャーミングな水素コアクラスターの生命体がいます.銀河系の2自転前にも接触、また友好関係を求めてきています."
"いつも仲直りしてくるな."
"それはそうでしょう.想像してもみて下さい、もしも一人きりだとしたらどんなにこの宇宙が、耐えられないほど、言語に絶するほど、冷たいものか ..."