21世紀のハイテク農業―植物工場 (ポピュラーサイエンス)

21世紀のハイテク農業―植物工場 (ポピュラーサイエンス)

21世紀のハイテク農業―植物工場 (ポピュラーサイエンス)

bbb:一般的興味.たまたま目に付く.
ref: クロード・レヴィ=ストロース (p.125、野生思考と栽培思考)
finish: 050606

1 いま日本の農業は

p.12 農業を魅力あるものにするためには、高収入、自動化・省力化・作業環境改善、安定生産、無農薬栽培にする必要がある.そのためには環境制御、水耕栽培メカトロニクス、バイオテクなどのハイテクを導入しないといけない.つまり、農業が「脳業」になってカッコいいものになり、企業も参入し、活性化するであろう.

2 環境制御の原理

植物の成長にはさまざまな環境要因がかかわる: [地上部]光(強度、光質、日長)、温度、湿度、CO2濃度、風速、[地下部]肥料濃度、肥料成分、pH、溶存酸素量、液温、水量、流速、[物理的刺激]電磁場、音響、遠赤外線。これらはそれぞれに植物の成長と相関図を描くことができ、大体飽和型(一定値に近づいていくような形)、最適型(山形)、増大型(直線形)に三分されるのだが、互いに複雑に相互作用もしており、たとえば同じ光の強さでもCO2濃度によって成長は違ってくる。この複合効果を考慮しつつ、コストパフォーマンスのよい環境要因から優先的に最適な値にもっていくことになる(「最適化原理」)。

3 植物工場とは

この本では「高度環境制御による植物の連続生産システム」(p44)とする。「植物」は如何様にもとれて、植物細胞、組織、植物体まで考えられるのだが、主に植物体について、植物工場の具体的な実際を紹介している。植物工場は「農業の工業化」のひとつと考えることができ、一般的な「工業化」のアナロジーからいけば、規格化と高速生産が求められることになる。つまりは植物成長の定量的な定式化と成長促進だ。

4 実際の植物工場

海外から国内まで実際に研究運用されている例を紹介している。特に、ダイエーが千葉県船橋市ららぽーと店に完全制御型工場「バイオファーム」を作って、そこで「産地直売」しているというのが面白かった。別にありがたくないというか、植物工場が普通になればいろいろな価値観が変わってくるだろうことを見せてくれる。この点については次の章の最後にも触れられている。
コストの点から密植栽培する方がよい、と言っていろいろな工夫がされているようだが、これが動物だったら批判の声が上がることだろう。
技術課題のひとつとして品種改良が挙げられている。品種改良によって、2章で述べられているような環境要因の影響の仕方も変えることができるだろう。植物自体も、環境も可変なのだからフクザツで難しそうでおもしろい。

5 植物工場の未来

日本だけをとっても、イネ栽培の工場化によって大きなインパクトがあろうし、地球規模でも食糧問題環境問題の面から植物工場の重要さはいいつくせない。人工生態系。宇宙進出。Feの少ない南極洋に鉄をまいて藻類を殖やし、CO2を吸収させるという話があるらしい。順列都市のバタフライ計画並だ。最後に、植物工場の思想的意味について。気候と文化の関係は昔から指摘されているが、植物工場は環境までも制御して食べ物を得てしまうのである。旬の概念、陰陽概念もまたそれを支える基盤がなくなるであろう。というか既に無くなりつつある。レヴィ=ストロースは未開社会や芸術分野によく見られる「野生の思考」(呪術的、神話的、幻想的、象徴化作用)と「栽培思考」(効率重視、栽培種化、家畜化)の区別を提唱した。植物工場は「超栽培思考」と呼ぶべきものである。この農業の工場化法は、工業のように相手を加工して改変してしまうのではなく、全体を最適化するものといえる。

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世の中にはまだまだ最適化が可能なところがたくさんある。これは単に効率重視というのでもない、物事を正しくやる正しいやり方なのだ。21世紀とまでは言わずとも、これからしばらくはeXtreme X の時、と思う。

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